一歩下がって二歩進む   



この冬も少しばかり、私のアトピーの状態は落ち込みを見せた。
もう普通に近い外見に戻った感覚でいたので、少し驚いたけれど、しかし振り返ってみればこのサイトにも「冬の日々」などというタイトルで書くなど、空気が乾燥して皮膚バリアが損なわれやすい冬の季節は、きついことが多かった。
IgEなどの血液検査結果も、夏の後の10月より、冬の後の3月の方が悪い傾向がはっきりあった。

夏の間は潤いを保っていられた肌が、冬期は乾燥して白く粉をふいたように見える。
衣服を持ち上げると、ごく細かい皮膚の角質片が、白くはらはらと舞い落ちる。
かつてよりはずっと微細で少ないので目立たないが、濃い色の床に落ちると意外と明瞭で、あたかも掃除を怠っているかのようである。
幸い、症状は外に出ている顔、首、手までは及ばなかったが、手のひらにはまた少し小さな水疱やその後のガサガサが目立つようになった。

ピーク時の2月前半2週間ほどは、外見だけでなく活動意欲にも影響した。
お風呂に入った後、全身の皮膚がひび割れるような、つながらずに崩れてしまいそうなあの感じ、あの嫌な不安定感がかえってきた。
皮膚表面構造が再度構築されて落ち着くまで、体を動かすことすら心もとない。
入浴後の休みを長くとり、その間はひたすらじっとして、もうそろそろいいかな、と恐る恐る動き出すのだった。

こんなふうに体は、悪化の波を次第に小さくしながら、だんだんと良くなっていくのだろう。
皮膚は、最大の臓器と言われる。
全身の体表面に密着し、1.6平方メートルにも及ぶ大きさを有する。
その全部を剥がし、貼り変えるようなことはできない。
私は私であり、これは私の体である。
良いところも悪いところもいっぱい持った自分自身。
それを大事に愛おしんで、私は自分に与えられた生を生きていく。


どうしても朝が起きられなかった宵っぱりの性質は、何だか変わってきた。
低血圧でなくなってきたせいかもしれない。
高齢になるにつれ誰しも、生きて食べてきた期間の分だけ血管壁内に脂肪かすが貯まり、動脈硬化が進んで内腔が狭められるため、血液を送る推進力を増す必要があり、血圧は高くなる。
冬寒の中でも、布団から出られないということもなく、朝、すっきり起きられる。
人生の中で初めてと言っても良い、楽に起きられる日々は、さながら新しい生のようだ。
人間の体は、自然に落ち着くべきところに落ち着いていくのだろうか。
高血圧へ落ち着かないようには、注意しなければならないが。


そして春を迎えると今度は、なぜだか人間は眠くなる。
春眠暁を覚えず。
頭もぼうっとしやすくなる。
寒さで緊張していた神経が緩んで、リラックスし、眠りにつきやすくなる。
冬の間に不足していた睡眠を取り返し、これからの良い季節に成長するための力をむさぼるかのように、人は眠る。

この季節、スギやヒノキの花粉アレルギーで目や鼻や咽(のど)が強い炎症を起こし、さらに頭がぼうっとしてしまう人は、さぞかしお辛い頃であろう。
申し訳ないくらいだが、私はあいかわらず、スギ花粉症の症状は出ない。
最近有名になってきた花粉皮膚炎の症状、目のまわりや頬に痒みや赤みが出るようなこともなく、肌はしっとりしている。

幸いなことに、日々拝見しているクリニックの患者さんたちにも花粉症状が軽くなっている方が増えており、嬉しい限りだ。
根気の要る施術をくじけず受け続けて下さっている方々に、お礼を言いたい気持ちである。
まだまだ至らない自分ではあるけれど、こうして、共に少しずつ、良くなっていければいいと思う。


今まで取り組み不十分だった課題、甘味の制限にもとうとう力を入れることにした。
皮膚や体の調子を整えるため、アトピーの者があまり食べない方がいいとよく言われる食物には、アレルゲン以外に、白砂糖や精製穀物のような糖質、オメガ3以外の油脂、添加物、農薬などがある。
私は、チョコレートに目がない、アイスクリームに目がない、あんこもとても美味しいと思う。
だが砂糖は、皮膚を丈夫にするために重要な、ビタミンB群を無駄遣いさせてしまうと言われているし、糖尿病患者に皮膚の痒みが生じやすいことも知られている。
知ってはいても、実践していなければ意味がないと、わかってはいる。
しかしなぜだろう、甘味の誘惑はかくも甘美に、私を含む多くの人々を引き寄せる。
そんなふうにずっと止めるに止められなかった自分をもっと見直すことが、ようやく今ならできるかなと思った。

とはいえ、生来の少食は治らない。
朝からご飯、味噌汁、焼き魚、おひたし、漬物、佃煮というような、体に良いとされるフルコースなど到底食べられない。
それでもできるだけ、食事でバランスよく栄養を摂り、お腹を満たそうとするようになった。
間食を完全には断てないとしても、その量や頻度をできる限り抑えようとしている。
どこまで続くか、どんな変化が起きるのか起きないのか、現在進行中である。


体質とともにどう生きるか。
この大きく重い主題に、向き合い続けていきたい。
安易な正解など決してない、困難な命題。
施術を力にクリニックで、薬の力を借りて病院で、アレルギーという病を見つめていたい。
ときに勝算に乏しくても、くり返す悪化に泣かされても、目を背けず。
幾多の医師たちが、そうして来たように。


2019.3.







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