[手を変え品を変え]




. デュピクセントは注射、コレクチムは塗布、そして今度は飲む薬も。
アトピー性皮膚炎の新薬ラッシュが続いている。

商品名(成分名)と記載していくが、
オルミエント(バリシチニブ)
リンヴォック(ウパダシチニブ)
サイバインコ(アブロシチニブ)はどれも、
コレクチム(デルゴシチニブ)軟膏と同じく
ヤヌスキナーゼ(JAnus Kinase;JAK)阻害を機序とする内服薬である。

JAKは、細胞内で免疫炎症や皮膚バリア障害が促進されていく経路の途中にある。
ゆえにJAK阻害剤は、皮膚の炎症やバリア障害に至る手前でくい止めてくれる。

とても良い話のようだが、まずデュピクセントと同じで高価。
1日量の1錠が5千円ほどになる。
10日で5万、1月の薬代は3割負担でざっと4万5千円余。
目を剥(む)きたくなるような額だ。
しかもそこまで強力な薬ゆえか、副作用の方もより重篤(じゅうとく)である様子。
感染症の合併や悪化のみならず、胃腸に孔(あな)が開くことすらありうると言う。

医療は、どこを目指しているのだろう?
ステロイド外用薬などの既存治療で手に負えない重いアトピー性皮膚炎の患者が、すばやい効果を期待するならば、それが与えられるようにはなったが、その代わり命懸けで臨んでくれ、という世界になってきた。

一連の新薬は、どれも突き詰めると生体本来の免疫力を封じ込める「免疫抑制薬」に他ならない。
抗炎症薬だとか、免疫調整薬とか、受容体拮抗薬、モノクローナル抗体製剤、キナーゼ阻害薬、あるいは他にどうとも言いようがないのかアトピー性皮膚炎治療薬。時と場合により薬により、いろいろな言い方をされて煙(けむ)に巻かれそうになるけれど、
既存の外用プロトピック(タクロリムス)やカルシニューリン阻害の内服ネオーラル(シクロスポリン)、新薬のトップを切った注射デュピクセント(デュピルマブ)、今後続々登場予定の外用モイゼルト(ジファミラスト)、インターロイキン31(IL-31)や33(IL-33)の阻害薬らを含め、アトピー性皮膚炎の湿疹に対して抗炎症作用を発揮する薬はどれもこれも、アレルギー免疫反応が生じ皮膚の局所炎症を形成するまでの過程のどこかを遮(さえぎ)るものである。

細かく言えば、モイゼルト軟膏といったホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬は、免疫を直接抑制することなく炎症性サイトカインを抑える、免疫調節薬だそうである。
PDE4を阻害する結果、免疫細胞内で腫瘍壊死因子α(TNF-α)や、IL-4、IL-5、IL-13、IL-22、インターフェロンγ(IFN-γ)やなどの産生が抑制され、効果を現す。
IFNやILやTNFはサイトカインだが、サイトカインはとりわけ免疫系の中で重要な働きをする物質群である。
これを「免疫を抑制しているのではない」と言っていいのか? 私は首を傾(かし)げてしまう。
多少間接的ではあるかもしれないが、具体的な作用点が違うだけで、広い意味での標的はやはり免疫ではないのだろうか。

さてそうした中で、JAK阻害薬の作用点はと言うと。
細胞表面の受容体(レセプター;Rと略される)に、適合するILやIFNが付着すると、それら受容体の根元にあるJAKが活性化して、細胞内の化学信号伝達が開始される。
次いでシグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)がリン酸化され、活性化されて働き始める。
STAT6の経路は皮膚の免疫炎症へ、STAT3はバリア機能障害へとつながっていく。

JAKを阻害すれば、炎症もバリアも治(おさま)るべくして治るのだろう。
しかし免疫のどの仕組みにも言えるいつも書いていることだが、人体の中においてJAK-STAT経路は、アトピーの悪化だけに働いているわけではなかろう。
JAK阻害薬がリウマチや関節症性乾癬にも適応となっているように、他の免疫炎症性の病気の犯人となりうるのはもちろん、もっと本来的に言うならば、細胞の中で必要な情報を伝え、適切な物質を作るなり止めるなりすることで、どんな状況になっても人体の中をより健康な状態に維持するために備わった仕組みであるはずだろう。

それを阻害することで、致死的な経過を含めた重篤な副作用が認められ、薬の解説書に医師たちへの警告が載るほどであることが、何よりもそのことを証明しているのではないか。
これは、薬を飲むという全身投与のような強力な形でほんとうは抑制してはしまってはいけない、体の仕組みの一部分なのではないか?・・

帯状疱疹が4.1%。
よく見られるJAK阻害薬副作用の一つであるようだ。
折しもこの数年、帯状疱疹のワクチンが2種も相次ぎ認可を受けている。
「病気は薬でねじ伏せろ」が現代の流儀であるなら、
JAK阻害内服薬開始時には、帯状疱疹ワクチンをセットで受けて備えなければならない日が来るのか。
ちなみに帯状疱疹ワクチンも、非常に高価である。

JAK阻害薬の内服をご検討の方には、その前に薬の詳しい説明をお読みになり、とてもここに書ききれない幾多の副作用を確認された上、決断されることをお勧めする。

2021.12.  


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