皮膚科の学会に行き、アトピー性皮膚炎に関する話を聞いてきたが、今回はここ数年の沈滞した感じとは、かなり様相が違っていた。 その理由は、開発中の新薬多数の台頭(たいとう)である。
抗IL-4抗体デュピルマブ、抗IL-13抗体レブリキズマブ、トラロキヌマブ、抗IL-31抗体ネモリズマブ、PDE阻害薬クリサボロール、OPA-15406、アプレミラスト、JAK阻害薬トファシチニブ、バリシチニブ、核酸医薬AMG0101、水酸化ステルベン分子GSK2894512、・・・
顧(かえり)みれば、1900年代後半からステロイド外用剤が次々と開発され使えるようになって以来、アトピー性皮膚炎治療の中心はもっぱら外用ステロイドであった。 他の方法はどれをとっても、たとえば内服抗ヒスタミン/抗アレルギー剤の痒み制御はしばしば十分でなく、光線療法も一部への追加療法にとどまり、保湿剤は炎症を癒せず、アレルゲン回避を行うは難し、とインパクトの弱さが否めない。
切れ味良く炎症を抑える外用ステロイドこそが、ずっとアトピー治療の中心だった。
世紀をまたいで外用タクロリムス(プロトピック)が出てきたときは画期的で、アトピー顔貌と言われるような赤く肥厚しむくんだ顔にまで至ることを、かなりの程度予防してくれるようになった。
内服シクロスポリン(ネオーラル)がアトピーに適応となったときも話題になった。
アレルギーに対応する注射薬としては、古くから使われている有名なネオファーゲンなどがあるが、効果が不定で現在一般的には用いられない。 つまりここ半世紀余りは「効くのはステロイドだけ」とそれから「効くのはステロイドとプロトピックだけ」という時代が続いていたのだ。
今回登場しつつある薬らは、とうとうそうした時代を変えるのかもしれない。
広く免疫の活動を抑える薬は、副作用として細菌・ウィルス・カビなどの感染症にかかりやすくなるといった、場合によっては生命予後すら左右しうる重いリスクを内包している。
免疫がどう働きどんな段階を経て、アトピーの症状を表出させるまでに至っていくのか、その仕組みについては年々少しずつ解明が進んでいる。
まず関節リウマチで、それからやはり体質の皮膚病である尋常性乾癬の重度の患者において、こうした望みの一部はすでに現実化している。
複雑な免疫の仕組みの中のさまざまなポイントに、それぞれ効いていく薬。
免疫ポイントへの操作の影響が、アトピーにおいて都合良く、副作用少なく進むよう祈るすべての人の願いを載せて、新しい時代の風が吹き始めている。
どの薬も、アレルゲンが引き起こす免疫反応が、痒みや炎症につながっていく過程を制御する薬であって、患者の皮膚バリア機能を健常にしたり、アレルゲンをアレルゲンでなくしたりできるわけではない。 しかし、アレルゲンが入ってきたとき必ず強く起こるはずの不適切な免疫反応が、もしこれらの薬が効いている間は暴発を避けられるのだとすれば、それは原因療法に一歩近づいている、と言えるのかもしれない。 人はそうして、病という苦痛を解決するための飽くなき努力を続ける。
2017.11 [MIOの世界]トップページへ クリニックのサイトへ |