今日はアトピー性皮膚炎で痒くなったとき、実際どうなるのかを、
一患者として体験を思い出しつつ書いてみたい。
アトピーの痒みは、急に訪れる。
しばらくの間、ぐっと我慢してみる。
それで治ってしまうこともあるが、大概は治らない。
仕方がないので、その部に手を触れる。
いったい何が起こっているのだろうか。
すると、ブツブツやボコボコができていることが多い。
ただザラザラなだけのこともある。
ボコボコがどこまで、どの程度広がっているのか、指で確かめていくと・・
結構な広さである。
目で見るその姿を想像し、我が身ながら気持ち悪く思う。
それとともに、痒みに耐えきれず、掻き始める。
このとき、爪がことのほか役に立つ。
指先や指の腹では、柔らかくて皮膚に押し付けると凹んでしまい、
そのまま指を動かしても、なでさすっていることにしかならない。
それでは痒みはなだめられない。
おさまらず強くなっていく痒みに身悶えする辛さが待っている。
まず爪を立てて押し付けてみても不十分なとき、大抵はそうなのだが、
いつの間にかボリボリと爪を動かしている。
嫌な音。自分がとても、みっともなく下品になっている気分。
だが止められない。
肌はピンク色に膨らむだけでなく、
小さいブツブツや水ぶくれがどんどん増えてきたり、
あっという間に真っ赤になってしまうこともある。
その急激な変化は、恐ろしいほどだ。
痒みが小休止してくれれば、掻くのも一段落。
それを何度かくり返し、おさまってくれたら衣服を戻す、あるいは眠りに入る。
事後に入れかわるように強い痛みを感じ、悲鳴をあげることもある。
見ると、爪でえぐった擦り傷や、何本も線状の切り傷ができている。
癒えるまで2、3日の間、痛みに耐えるしかないとわかっていて、
それでも掻破は止まらない。
これがアトピー性皮膚炎の性(さが)である。
痒みの波が、何段落しようといつまでも止まなかったり、
全身の広範囲に渡っていたりすると、
ほとほと参ってしまう。
暖まると痒いからと、必死に冷やしたときもあるが、
止めて5分としないうちにまた痒くなる始末。
そのうち冷却のリバウンドでさらに火照り、痒みが増す気さえしてくる。
ようやくなんとか波が去った後、
手の爪には皮屑が残り、まるで犯罪の痕か、不潔の烙印のよう。
とても悲しくみじめな気持ちになる。
ガサつきや痒みは、あまり好意的に捉えてもらえないから、いっそう悲しい。
人はそれらから、目を背(そむ)けたがるもののようである。
制御不能の痒みに苦しむ患者に対し、
周りの人は「見なかった」ことにし、そっとその場を離れ、距離をとるか、
「薬を使って早く直せ」と言い放つだけだろう。
あるいは、「掻くな」とヒステリックに叫ぶかもしれない。
とりあえず爪を立て、押さえてみたりするのは、
自分の肌を破壊しないうちにおさまってくれないか、と願う哀しき抵抗。
それでほどなく炎症が退き、他の人と変わらぬ体(てい)を保てるならどんなにいいだろう。
「蚊に刺されたらそんなふうに我慢して、すぐ薬を付ける、掻いちゃダメ」。
健康な人たちが実践しているその手立ては、アトピー患者には雀の涙ほどの効果しかない。
「そんなことでおさまる程度の痒みなんだ、いいなぁ」と心底、思うのである。
痒みはときに、人生を瓦解させるほどの威力を持つ。
この人生で、私が学んだことだ。
自分のそれと闘い、患者の方々のそれとも取り組んで、
自らの性に向き合った上での、より快適な生活のために、
努力を続けたい。
2022.5.