<成人アトピー脱ステロイド海外論文>




アトピー性皮膚炎に脱ステロイドを実施した、新規海外論文を教えて頂いた。
「成人アトピー性皮膚炎における長期外用ステロイドの中止 前向きコホート研究」
Cessation of Long-term Topical Steroids in Adult Atopic Dermatitis A Prospective Cohort Study
Sheary, Belinda FRACGP; Harris, Mark Fort MD
Dermatitis: May 11, 2020

外用ステロイドの離脱症状が心配で、使用を止めることを決意したアトピー成人患者たちがどうなるか、をみたオーストラリアの研究である。
補助団体から募られた24人が、2年以上にわたりアンケートに答える形で経過観察された。

外用中断後長期間(many months)、患者たちのQOL(生活の質)には多大なる影響があったが、症状の発現や重度は減少していった。
DLQI(皮膚科学的生活質の指標)は改善した。

多くの人が、2年後には皮膚の症状が解消、もしくは生活に与える影響が少しだけになったという。
とはいえ、個々人のDLQIは変動が大きく、どの時点でも大小の幅が見られ、かなりの個人差があることを示していた。

外用ステロイドの長期使用を取り止めることを考えている患者に、予後の観点から意見するのは難しい、結果は多様だからだ。
けれども、多くは最初の2年過ぎの間で顕著に改善することだろう。


以上が電子掲載された要旨である。
ステロイドに頼りたくないアトピー患者にとって心強い。
止めてもなんとかなるかな、という前例として。
そしてそんな文献が皮膚科の専門雑誌に載せてもらえるような世情は、好ましい。

医学雑誌に受諾され掲載された内容は、医師がエビデンス(evidence)と呼ぶ、科学的裏付けとなる根拠・証拠とされる。
このように雑誌のランクやインパクトファクターが高ければなおのこと。
研究自体も、結果のわからないところからスタートしている前向き研究であり、信頼性は高い。

ようやく世の中がこうした多様性を認めるところまで来たのかな、と思う。
だが私の中では、患者団体が治療の問題点を認めさせて勝利したような高揚感はない。
外用ステロイドは、薬害ではないから。ただアトピー性皮膚炎という困難な病気を、現代医学の手段で制御しようと努力する中での、悲しい成り行きなのだろうから。

アトピー体質を制御し、生活の質を高め、より問題少なく日々を過ごすために、どんな手段を用いる?
薬の力を借りて、症状を抑え込むのか。
暴発させないよう防御する、生活管理を徹底させるか。
前者は積極で、後者は消極。しかし前者は人工で、後者は自然。
消極よりは積極の方が、人工より自然の方が、その先に明るい未来がありそうだ。
軽度なら、どちらを選んでもそこそこ治る。中等度なら、次第に上手くいかず迷うことが増える。重度なら・・。

時代は進み、前者の選択肢も増えてきた。
作用/副作用共に強化された分、効果としての確実性は明らかに増大しているそれら。
使わない手はないという考えにも、頷(うなず)かざるを得ないのか。

それでも、どれが正解と決まっているわけではない。
あっちへ行ったりこっちへ行ったり、揺れ動いてもかまわない。

私は、自身の皮膚科医としての臨床経験から前者を袋小路と感じるようになった。そして自らに後者を施すも立ち行かなくなり、第3の道という青い鳥を探し廻った末に辿り着いた代替療法にずいぶん助けられて、幸運だったと思っている。

もう一つの治療法にしがみついたり、こだわり続けたりする時代ではない。
私の代替療法クリニックに見えている方々は、よく違う方向性の治療を併用されている。
「ステロイド」を絶対使わないことが重要なのではなく、使わずに他の方法でもなんとかなるとき、使うほどの緊急性や必要性のないときには避けていくことが、大事なのではないだろうか。

それぞれの人に、異なる病像、経過、社会的背景、心情がある。
治療の選択肢は多様であるほど、患者ごとの人生を最大に活かすために貢献するだろう。
脱ステロイドが市民権を得るのは、とても良いことだと思う。


2020.5.


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