新薬が売り出されると、それなしでは診療が成り立たないかのような喧伝がよくされる。
「アトピー性皮膚炎の治療は新時代を迎えた」
新薬ラッシュという意味では確かにそうだ。
その先頭を切って登場したデュピクセント(商品名デュピルマブ)は、予想以上の症状制御力と、予想を下回る副作用出現で、目覚ましい成果を挙げている。
まるで治ってしまったかのような、症状の軽快。
全然痒くなく、皮膚は滑らか。
それはアトピー患者の誰もが、夢見て止まない、究極の姿かもしれない。
しかし患者の期待する「治癒」、すなわちアトピーからの卒業につながるのかはわからない。
そのデュピルマブも発売後あっという間にもう5年近く、効くという実績に押され、重症例だけでなく、中等症例や若年者にも適応を拡大し、使う患者を増やしていこうとされているのが現状である。
ステロイド外用剤にしたって、登場時は福音でしかなかった。
連用による依存性、皮膚萎縮、潮紅などの問題が表面化したのは、数年単位の長期にわたり使用を続ける患者が多くなってからのことである。
患者が病院を訪れるのは、自らの病状を持て余し、どうにかしてほしいと思うからだ。
この苦痛を今すぐ止めてほしい。この病を完全に治してほしい。
ところが、ことアトピーに関しては、現代医学の医師はしばしばこの患者の要望を実現できない。
そしてそれゆえに不和が生じている。
新薬はこの事態を収拾できるのだろうか。
少しずつ広まっているとは言っても、デュピルマブを始めとする抗体医薬は高価なため、医療経済上、個人財政上、自ずと使用者が制約される。自己注射が可能になったとはいえ、注射薬ゆえの煩雑さもある。
その後に承認が進んでいるバリシチニブ(オルミエント)、ウパダシチニブ(リンヴォック)、アブロシチニブ(サイバインコ)らは内服なので一見手軽のように感じられるが、全身に免疫抑制作用が及ぶなどの副作用リスクから、やはり対象は限定的である。
デルゴシチニブ(コレクチム)やジファミラスト(モイゼルト)は外用ゆえにより安全ではあるが、主作用の点で有効かどうかは、場合によるようである。
アトピーのひどさに苦しむ患者たちの、この苦痛を今すぐ止めて、に対応できる薬の選択肢は増えたと言っていい。
重症者を改善させられる薬ができたことは、確実な進歩である。
だが、まず保湿、次にステロイドを主体とする抗炎症外用薬、良くなっても保湿は継続、という標準治療の主要な流れそのものは変わっていない。
大半の患者においては、変化は、今までステロイドだったのがコレクチム軟膏かモイゼルト軟膏に、一部または全部が置き換わった、くらいか。
だがその置き換えは、ステロイドの局所的副作用などの悪影響を減らし、ステロイドでこじれた患者医師間の関係の改善に役立つかもしれない。
いろいろな薬が選べるようになり、
これからは、患者の二極分化が進んでいくのではないかと思う。
強い薬でがっつり治したい人と、弱いものでも足るを知る人。
強い治療以外は認められない世の中になりはしないか、ということだけが、ちょっと心配である。
経過を注視していたいと思う。