外反母趾のしくみと治し方





カイロプラクティックをしている関係で、足の造りに関心がいく。
このサイトの目的は教育ではないけれど、医師であるゆえに知り得た情報提供の一環として、このことは書き留めて残しておきたいと思った。
外反母趾になる機序についての考察である。

数年前に講演をさせてもらった際に、資料をさまざま読んで考えた。
挿入図は、その際作成したスライドから取ってきている。


外反母趾と聞いたとき、誰しも思い浮かべるのは、親指が小指側へ大きくくの字型に傾いた姿だろう。
その曲がりの大きさを嘆き、まっすぐにしなくてはと思い悩む人は多い。
だが、気にするべきは本当にそこなのだろうか?

親指だけ、あるいは親指とその根元の骨(第1中足骨(ちゅうそくこつ))や隣指との位置関係だけを見ているのみでは、問題の本質は見えてこない。
母趾すなわち親指が外方向へ反るのは、単に靴先で押し曲げられるせいではないからだ。
問題の根っこは、足の柔軟さを支えるアーチ構造の乱れにある。

外反母趾の美観より気にするべきは、それにより失われる足本来の機能である。
その理解のために、以下、その発症過程を書いていく。


下の図をご覧願いたい。
左と右上の図は、足の裏側の筋肉・靭帯・骨などの内部構造を示したものである。少し気味悪く感じられるかもしれないがご容赦を。
そして右下の図は、足の甲側から見たようすである。

左図のように足裏の深部には、黄色で示した、母趾内転筋という筋肉がある。
この筋は図に示すように2つの部分に分かれる。
横に走る部分の始まりは、3〜5番目の足指根元の関節から、斜め縦の部分は、足裏真ん中辺りの骨群から始まり、伸びた先はいずれも、親指根元の外寄りにある骨へ至る。

横の筋が収縮すれば、親指が足の外側(小指方向)へ引っ張られ、
斜めの筋が収縮すれば、親指を足の底へと引き寄せる。
共に働くと足指をすぼませるように働くこの筋が、外反母趾形成の鍵だ。

ちなみに、「あれ、『外』へ引っ張るのに、なんで『内』転筋?」
と疑問を持たれた方は、鋭い。
体の軸の中央から離れる動きを外転、近づく動きを内転と呼ぶのだが、足指の場合は足を縦に割った中央線が体軸となるので、足中央に近づく親指の動きは、内転ということになる。

さて、左図で足前方の横アーチが潰れると、縦に5本走っている足前方の骨、すなわち第1から第5の中足骨の配列が、ちょうど扇(おうぎ)を開くように広がり、その先端(足指が付く場所)が青矢印のように広くなる。
外反母趾の特徴の1つ、内側へ張り出した第1中足骨はこうして形成される。

この足指根元幅が広くなると当然のことながら、親指の根元も広がった先へと移動させられる。
すると、黄色で描いた拇趾内転筋は引き伸ばされるので、元の長さに戻ろうとする収縮力が働く。
そして右上図の黄色矢印の通り、母趾内転筋の付着点である親指根元の外(小指)側が、小指側、足底側に引かれることになる。
このとき親指の根元は、関節で中足骨につなぎ留められているので動けず、根元を通じて親指の先の方が引かれ、小指側に傾く方へと動いていく。
これが外反拇趾のできあがるしくみと考えられる。

ここで1つ、大事なことがある。
引かれた親指は単に横へ傾くのではなく、回転しながら傾く、ということだ。
母趾内転筋が付いているのは足の裏側なので、親指は足裏側でより強く引かれ、甲の側は遅れて追従する形になる。
よって右下図のごとく、指の腹側が隣指側、指の爪側は体全体の中心線側を向くように、親指は回転していく。

外反母趾をよく観察してみられると良い。
程度の差はあってもその爪は、真上よりも左足なら右側、右足なら左側を向いているはずだ。
逆の向きになることは100%ない、と言って良いと私は思っている。


では、回転の何が問題なのだろうか。
それは、足指の軸が傾き、指をまっすぐ着けなくなること。
そして、回転にともなって指の腹が地面から浮いてしまうことだ。
その結果、足の親指に体重を乗せ、地面に踏み込むことができなくなる。

思い出してみてほしい、陸上でダッシュをするとき、スタート時に必ず、足の親指で地面を蹴って行くだろう。
そんなふうに、親指で地面を捉え、蹴り出すのは、人間が立ち、体重を支え、歩く、すべての動作の肝(きも)なのだ。
その親指が踏み締められないとなれば、これは大問題に違いない。

だから逆に言えば、外反母趾の外向き角度がいかに大きかろうと、その親指でしっかり踏み込むことさえできているなら問題はない、と私は考えている。
もちろん、親指根元の張り出した関節部が擦れて炎症を起こす(バニオンと言う)ような問題は別にして、足の機能としてはである。
大事なのは、指の角度をきれいに整えられるかどうかではなく、その親指がその人を支え動かすという本来の働きを、いかに円滑に担(にな)わせられるかだ。

親指と隣の指の間に挿入して指の間を広げ、親指の角度を戻そうとするグッズがある。
それは母趾内転筋を無理やり引き伸ばし、伸びきってもはや縮めないバネに成り果てさせてしまっているかもしれない。
足指がまっすぐに治って見えたとしても、その実、機能を悪化させているのだとしたら、こんな悲劇はない。
広がった足指根元の幅に、足指を合わせるのではなく、その根元幅を狭(せば)める、それも足のアーチ回復により自然に狭まるようにするのでなければ、治していることにはならないのである。


足の横アーチ、縦アーチを回復させるには、どうしたらいいか。
何よりも大切なのは、筋肉に本来の働きをさせることに他ならない。

前脛骨筋(ぜんけいこつきん)、後脛骨筋、長腓骨筋(ちょうひこつきん)、短腓骨筋。
脚には、膝より下から始まり、足の中ほどの骨群に至る筋肉がいくつかある。
足を曲げたり伸ばしたり、足を外側や内側を持ち上げたりする作用をする。

これら脚の筋肉を日々の生活の中で自然に使っていれば、筋肉は適切に発達して適度な収縮力を保ち、足の中程をバランスよく持ち上げてアーチを形作ってくれる。

筋肉の動きを妨げない靴を履く。
靴底は柔軟に曲がるか? 靴の中で足指は動き力を入れられるか?
足を柔軟に動かせる靴を履き、立って、親指で蹴って、かかとから着地する。
そんなふうに普通に歩くだけで十分なのである。


2018.10.





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