[脱ステロイドの必要条件]



.



爆発したアトピー性皮膚炎にステロイドを使わない道を選んでこの方、私は社会生活から脱落したままでいる。

私自身はこの道を選んだことに(強がりでなく)何の後悔もない。
予想を遥かに超えた厳しく長い道程であったことに驚きはしたが、亀の歩みでも確かに回復している自分を肯定している。

だからといって同じ道を誰もが歩めると単純に思える程私はおめでたくはない。


薬に頼らない生活は無論望ましい。
しかし、それが簡単でないからこそ、薬は使われ続けている。それが現実である。
それでも使わない自分になるという道を選びたい人のために、私の考える脱ステロイドの要件を書き連ねてみようと思う。

苦しみは短く少ないに越したことはない。
そのためには、試行錯誤よりも、押さえるべきポイントが分かっていた方が、少しでも助けになるだろう。
そういう思いからである。


======================== ====== ==== == = = = = =
1)動機。
2)肉体的精神的社会的苦境を容認しうる、強い意志。
3)生活を維持できる経済的条件。
4)程度の差はあれ体が利かなくなり、普通の人が当たり前にできることができなくなる。それを代行・サポートしてくれる援助者。
5)社会的立場を失うことのデメリットの計算。
6)医学的問題。
========================= ====== ==== == = = = =

以下にそれぞれについて語る。


1)何故ステロイドなしでやって行きたいのか?。
ー自分自身で考え、決めた決断でなければ、続かない。


2)は人間的強さの問題だ。
この道は間違いなく茨(いばら)の道だ。
つらいのは嫌、楽をしたい、人に頼り自分で責任を取らない心構えでいるなら、早晩周囲に文句を言い始めることになるだろう。


3)4)が本当の問題だ。
ある病気の治療が、このように周囲に迷惑を掛ける形でしかできないということは、痛恨の極みである。
周囲を慮(おもんぱか)る気持ちのある善良な人ほど、困難が大きくなるという悲しい逆説が生じる点でもある。

けれどアトピー性皮膚炎に限らず多くの難病では、これが現実だ。
続けていくには、この2点はどうしても満たす必要がある。


3)生活のために自分が働くしかないー
4)助けてくれるような余裕のある人はいない-

という理由で、薬で凌ぐしかないという決断をしている人は多いだろう。
私はこの点で恵まれていたので、本当の苦悩を知らないであろうし、それ故そうでない事情を持つ人に強く押し切ることはできない。

しかしもしあなたにその気があるなら、本当にどうにもならないか、もう一度考えてみて欲しい。

窮すれば通ず、志ある所道ありである。
長い戦いであるが、体調により状況も変わる。その時々を乗り切っていければ、生き続けていけるのだ。


さらに4)に関してであるが、こうした援助者の最大の候補は家族、とりわけ両親であろう。
不謹慎を恐れず言うなら、両親も永遠に元気ではない。
この意味では早い方がいい。

大きくなっていると、今さらまた両親に世話を掛けることを心苦しく思う人も多いだろう。
しかし自立できる程度の健康を取り戻すためにそれが必要なら、やむを得ない。
ひとりで生きていくことだけが偉いわけではない。思いやりを持って助け合い生きよう。

既に所帯を持っていれば、第一候補は配偶者となる。

いずれにしても、この経験は、お互いのことを真に尊重しているかが問われる貴重な機会ともなる。
言い争ってもいいから、互いの意志を恐れず確認し協力を要請しよう。

それと、援助者はひとりでは足りない。
長く苦しい時期が続くと、今度は援助者が潰れてしまう。
親類縁者、友人でも理解者を見つけ、大事にしよう。

否定せず話を聞いてくれる精神的援助者も貴重なことも付け加えておく。


5)社会的立場というものは、とても重要なようで、世間一般では大人の必要最低条件とさえ考えられているようなきらいがあるが、意外と重要ではないものではないかという気がする。
長い人生、挫折や紆余曲折の存在は自然なことである。ぜひ面子や世間体の面を除いて考えて欲しい。

ただしこの意味で、脱ステロイド決行の「時期」を選ぶことは重要である。
自分の人生の中で、譲れないものは何で、リスクの最も少ない時期はいつだろう。
一般的には、社会人よりは学生の方がリスクが少ない。
また回復力が強い、こじれて難治化していないという意味で、より若く、早い時期の方が有利になる。


6)残念なことにステロイドを使いたくないという患者の医師を認め援助する医師は現状では非常に少ない。
それを医師の無理解と考えてもいいが、勝算に乏しい道であることを反映しているとも云える。

運良く理解してくれる医師に出会えたとしても、その医師に任せれば治してくれると勘違いしてはいけない。
明確に完治させる手だてがないこの病気では、鍵はあくまでも患者自身の自然治癒力である。
医師が与えることができるのは、乗り越えるための医学情報・薬と精神的援助であって、棚からぼた餅のように落ちてくる治癒ではない。

できるだけ医師に頼らずこの厳しい病気を乗り越えようとする時に、とても大事なのは、「無理をしないこと」である。

暴飲暴食・不規則な生活・過重な仕事などは、身体の免疫力を含めた自己治癒力を損ない、感染症の併発・悪化、アナフィラキシー(ショックに至る重篤なアレルギー発作)を起こしやすくする。
これらは致命的になりうるものであり、この時は医師の診察を受けることをためらうべきではない。

病んだ皮膚のたゆまぬ修復だけでも、身体は毎日多大のエネルギーを必要としていることを忘れてはならない。
長丁場の問題点として、少し調子が良くなったときには逆に特に注意する必要もある。
今までの分を取り返そうと急に行動レベルを上げてしまうと危険である。

顔の発疹のため、激しく眼周囲をこすったり叩いたりすることによる眼の異状については、よく知られているだろう。
眼科は早めに受診すべきである。


========== =========== ========== ======= ===

重ねて言う必要があると思うが、この道はとても苦しい。
つらい症状は長く続き終わりも見えない。

何でも不都合なことは他人のせいにしたい人には、きっとできないだろう。
どんな結果が出ても、決断した責任は自分の身で引き受ける覚悟が持てるだろうか。


トップページへ


.