ドクターXは水戸黄門


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テレビ「ドクターX」の新シリーズがスタートした。
当たり役を得た米倉涼子氏が、今回も白い巨塔を闊歩(かっぽ)している。

私にとって医療ものを見るかどうかの判断基準は、自分の仕事上必要となるかもしれない医療情報がそれに入っていそうかどうか、だったりする。
ドラマに限らず、ドキュメンタリーやニュースや書籍でもそう。
自分が日常外来で診ることのできる経験値には自ずと限りがあるから、そうした情報で自分の引き出しをさらに広げられるならと思う。
ちょうど役者になる人が、1つの人生では飽き足らず、たくさんの人生を追体験したくて、と言うのに似ているかもしれない。

最近の医療ドラマは、かの「ドクターX」で本田望結ちゃんが患者役となった多臓器体外摘出腫瘍切除のエピソードなど、夢物語でなく現実味のある医学の進歩が描かれていて、見応えがあることも少なくない。
だがその一方どんな物語ででも、整合性のない診断や治療の過程が展開されていくと、私はいたたまれない気持ちになって見る気も失せる。

何でも情報公開のご時世、医療の世界とてもはや密室深奥の秘義ではない。
誰もが自分の病気をネットで検索して数少ない専門医を見つけられるし、病気の知識を増やし理解を深めて生活の正し方など適切な対策を知ることもできる。
現状の明確な把握が可能になれば、要らぬ不安に惑わされることも、知らずに過ごして対処が遅れることも、少なくなるに違いない。

現代の映像や活字の文化は、エンターテインメント(気晴らし)とエデュケーション(教育)とを2つながら叶えようとしているのだから、大したものだ。
とはいえ、教育要素にこだわる私のようなひねた同業者はもちろん一部で、視聴者の大半にとって「ドクターX」の魅力は、やはりそのエンターテインメント性にあるだろう。

何の後ろ盾も持たないフリーの美人外科医が颯爽(さっそう)と登場し、メス捌(さば)きも鮮やかに病に悩む患者を助け、組織の論理を切って捨てる。
あたかも悪人に苦しめられる衆生(しゅじょう)を助け、代官らの苛政(かせい)を正す、ドラマの水戸黄門さまのよう。

今や国民的番組に成長したこの作品は、そんな長寿番組になっていくのだろうか。
大門未知子に後ろ向きのくよくよは似合わない。
淡々と真剣に仕事を続ける職業人の姿を、見せ続けていってほしいと思う。

2016.10.  

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