闇に棲む





病(やまい)の深みは、暗黒の闇。
いつと知らずゆえも知らず、落ち込む。
「ゲド戦記」で語られる、死者の世界のよう。
健者との間を、石垣が隔てる。

失われる時、失われる能力(ちから)。
あったはずの、美しい体。
手に入れられたはずのキャリア、生きがい、充実感。
遠ざかる愉(たの)しみ。

いつしか暗順応のように視界を得て、闇に棲む。
そこでも生きていける、生命(いのち)なるものの強さ。
闇に鍛えられ、強靭となる精神。
精緻(せいち)なる心身に驚嘆し、畏敬し、信頼を寄せる。

光の世界は美しいけれど、
そこに住める者ばかりではない。
光には光の、闇には闇の生き方を。
いつか石垣が消え、好きに歩き廻れる日が来る。

失った日々を、悔やむ勿(なか)れ。
あるべきだった人生を、惜しむ勿れ。
これが私に与えられたもの。

命を奪われる宿命ではないことに、感謝しよう。
私の未来には、可能性がある。

「病気になって良かった」なんて言わない。
けれど、闇には闇の味がある。
闇の衣(ころも)を武器に、光の世界へ歩み出そう。

2010.7.  




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